グルココルチコイドは、細胞内のグルココルチコイド受容体に結合して遺伝子の転写を調節


図「新型コロナウイルス感染症の重症患者に投与される治療薬の作用機序」に重症患者に投与されるデキサメタゾン、トシリズマブ、バリシチニブが働くメカニズムを簡単に示しました。薬によって作用メカニズムは異なります。デキサメタゾンは副腎皮質ステロイドの一種で、免疫全般、特にマクロファージからの炎症性サイトカインの産生を抑えます。


機序:重症COVID-19患者は、肺障害および多臓器不全をもたらす全身性炎症反応を発現

また、デキサメタゾンの服用により、誘発感染症、続発性副腎皮質機能不全、消化性潰瘍、糖尿病、精神障害などの重篤な副作用があらわれる例が報告されています。これらの副作用があらわれた場合における対応について、適切な指導を行うことも求められています。

研究には英国内の175以上の病院が参加した。3月から今月上旬までの間、無作為に抽出した新型コロナウイルスの患者約2100人にデキサメタゾンを10日間投与し、非投与の患者約4300人と結果を比較した。

[PDF] COVID-19に対する薬物治療の考え方 第13版

この記事では、デキサメタゾンの効果や副作用、薬価などについて解説していきました。現在では、2020年5月にレムデシビル(商品名:ベクルリー®点滴静注液)が特例承認され、ファビピラビル(商品名:アビガン®錠)などの適応外使用も認められるなど、新型コロナウイルス感染症に対して用いることのできる薬剤の選択肢は増えつつあります。

50%)を認める結果(図11)22)であった。
英国オックスフォード大学Yuらが報告した「PRINCIPLE試験」は,65歳以上あるいは併存症のある50歳以上のCOVID-19疑いの非入院症例4700例を対象に行われた。結果は,吸入ステロイドであるブデソニド吸入の14日間の投与で回復までの期間を標準治療群と比較して2.94日短縮(図12)23)し,「STOIC試験」と同様の結果が得られた。4700例の被検者は標準治療群1988例,標準治療+ブデソニド吸入群1073例,標準治療+その他の治療群1639例にランダムに割り付けられた。ブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入し,最大14日間投与するという治療で,喘息治療でいうところの高用量で行われた。症状回復までの期間推定値は被検者の自己申告が採用されたが,標準治療群14.7日に対してブデソニド吸入群11.8日と,2.94日の短縮効果(ハザード比1.21)を認めている。同時に評価された入院や死亡については,標準治療群8.8%,ブデソニド吸入群6.8%と,2ポイントの低下を認めたが,優越性閾値を満たさない結果であった。
これまでのCOVID-19に対する吸入ステロイドの有効性を検証した報告では主に,明らかな肺炎のない症例や,外来で管理できる症例に限った研究が多い。前述の「STOIC試験」でも酸素化の保たれている軽症例が対象となっているが,「PRINCIPLE試験」ではCOVID-19の重症化リスクである高齢者や併存症のある症例が対象となっており,高リスク群に対する効果が示されたことは,大変期待できる結果であった。ただし慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)に対する吸入ステロイドは,新型コロナウイルスが気道上皮に感染する際に必要となるACE2受容体の発現を減少させ,COVID-19の感染予防に効果を示すと言われている。「PRINCIPLE試験」でもブデソニド吸入群に現喫煙者や過去喫煙者が46%含まれていることや,喘息やCOPD症例が9%含まれていることは差し引いて考える必要がある。また,ブデソニド吸入はタービュヘイラーというデバイスを用いて薬剤を投与する必要があるため,呼吸促拍している症例や人工呼吸管理の重症例に対しては,吸入ステロイドの投与は現実的には難しい。
また呼吸器内科医としては,重症度の高いCOPD症例に対する吸入ステロイドは肺炎のリスクが高まるということが懸念材料である。「PRINCIPLE試験」では,重篤な有害事象として,ブデソニド吸入群での肋骨骨折とアルコールによる膵炎によるものの2例が報告されているが,治療薬とはまったく関係ないものとされており,懸念していた肺炎のリスクについては取り上げられていない。ただ,もともと吸入ステロイドであるブデソニドは,気管支喘息や閉塞性換気障害の程度の強いCOPD,増悪を繰り返すCOPDに使用されうる薬剤であり,ステロイドの頻繁な使用は吸入剤とはいえ,一抹の不安が残る。
さらに呼吸器内科医として気になる点としては,適切な吸入薬の使用やアドヒアランスの面が挙げられる。「PRINCIPLE試験」でのブデソニド吸入は800μgを1日2回吸入,最大14日間であるが,症状の乏しいCOVID-19症例かつ吸入薬に慣れていない患者に対する治療であるので,実際のところ治療薬を適切に吸入できていない可能性がありうる。COVID-19症例や発熱症例に対面で時間をかけて吸入指導を行うことはおそらく非現実的なので,使用は紙媒体やデジタルデバイスでの吸入指導を理解できる症例に限られることになるであろう。そして,吸入ステロイドがCOVID-19の治療薬として承認されたとしても,その適正使用に関しては慎重に行うべきである。前述のシクレソニド吸入のケースシリーズが報告された際も,一部メディアで大々的に取り上げられたために,病院や地域の調剤薬局で,シクレソニドの需要に対応できなくなったことがある。以前から喘息の治療でシクレソニドを使用していた患者に処方ができないケースが散見され,多くの呼吸器内科医が実臨床で困惑されたはずである。
COVID-19の治療選択肢が増えることは喜ばしいことではあるが,吸入ステロイドを本来必要としている気管支喘息や増悪を繰り返すCOPD症例に薬剤が行き渡らないことだけは,絶対に避けなければいけない。本稿では,COVID-19の一般的な薬物治療から抗炎症作用を目的としたステロイド治療まで,今までのエビデンスをふまえて,まとめさせて頂いた。酸素投与が必要なCOVID-19症例に対してステロイド治療は重要な選択肢となりうるが,そうでない症例に関しては逆効果になることもありうる。当然のことであるが,COVID-19というだけで機械的に治療法を選択するのではなく,ステロイドが必要な症例の選択,投与開始日や投与期間,副作用の管理,その他のCOVID-19治療薬の選択など,症例ごとに繊細かつ十分に検討されるべきと考える。
ステロイドによる治療はCOVID-19の治療選択肢のうちのひとつであるが,このようなエビデンスの積み重ねで,COVID-19での重症化や死亡が1人でも抑えられることを現場の臨床医として切に願っている。【文献】1)Siddiqi HK, et al:J Heart Lung Transplant.

機序:重症COVID-19患者は、肺障害および多臓器不全をもたらす全身性炎症反応を発現す

主な治療薬として、デキサメタゾン、バリシチニブ、トシリズマブなどが認可されています。 ..