*2:非定型肺炎が疑われる場合:クラリスロマイシン,アジスロマイシン


誤嚥性肺炎の治療において、本邦では嫌気性菌カバーのためスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)などが用いられることがある。しかし、海外では誤嚥性肺炎の0.5%にしか嫌気性菌が認められなかったという報告もあり、米国胸部学会/米国感染症学会(ATS/IDSA)の市中肺炎ガイドライン2019では、嫌気性菌カバーは必須ではないことが記載された。また、2023年に実施されたシステマティックレビューにおいて、嫌気性菌カバーの有無により、誤嚥性肺炎患者に転帰の差はみられなかったことも報告されている。しかし、本レビューに含まれた論文は3本のみであり、サンプルサイズも小さく、結論を導くためには大規模研究が必要である。そこで、カナダ・クイーンズ大学のAnthony D. Bai氏らは、約4千例の市中誤嚥性肺炎患者を対象とした多施設後ろ向きコホート研究を実施した。その結果、嫌気性菌カバーは院内死亡リスクを低下させず、大腸炎リスクを上昇させた。本研究結果は、Chest誌オンライン版2月20日号で報告された。

研究グループは、カナダの18施設において市中誤嚥性肺炎で入院した患者のうち、入院から48時間以内に抗菌薬が投与された3,999例を対象とした後ろ向き研究を実施した。セフトリアキソン、セフォタキシム、レボフロキサシンが投与された患者を非カバー群(2,683例)とした。アモキシシリン・クラブラン酸、モキシフロキサシンが投与された患者、非カバー群の薬剤とクリンダマイシンまたはメトロニダゾールが併用された患者を嫌気性菌カバー群(1,316例)とした。主要評価項目は院内死亡、副次評価項目は大腸炎の発現、治療開始後のICU入室であった。なお、両群間の背景因子を調整するため、傾向スコアオーバーラップ重み付け法を用いて解析した。


主な結果は以下のとおり。

・入院期間中央値は非カバー群6.7日、嫌気性菌カバー群7.6日であった。
・院内死亡率は非カバー群30.3%(814例)、嫌気性菌カバー群32.1%(422例)であった。
・傾向スコアによる背景因子の調整後の院内死亡リスクの群間差は1.6%(95%信頼区間[CI]:-1.7~4.9)であり、両群間に有意差は認められなかった。
・大腸炎の発現率は非カバー群0.2%以下(5例以下)、嫌気性菌カバー群0.8~1.1%(11~15例)であった。
・傾向スコアによる背景因子の調整後の大腸炎の発現リスクの群間差は1.0%(95%CI:0.3~1.7)であり、嫌気性菌カバー群で有意にリスクが高かった。
・治療開始後のICU入室率は非カバー群2.5%(66例)、嫌気性菌カバー群2.7%(35例)であった。

著者らは、本研究には抗菌薬を必要としない誤嚥性肺炎患者が含まれる可能性があること、院外死亡や再入院の評価ができなかったこと、多くの患者で肺炎の原因菌が特定できていなかったことなどの限界が存在することを指摘しつつ、「誤嚥性肺炎において、嫌気性菌カバーは院内死亡率を改善せず、大腸炎リスクを上昇させることから不要である可能性が高いと考えられる」とまとめた。


[PDF] 肺炎球菌尿中抗原陽性を呈した , 誤嚥性肺炎・菌血症の 1 例

熱や咳が続いた場合、風邪と肺炎との区別がなかなかつきづらいですが、細菌性肺炎を疑う症状としては、高熱が続く、脈や呼吸が速い、風邪のような鼻水・咽頭痛がない、といった特徴があります。非定型肺炎では、頑固な咳を伴い、痰が少ないなどの特徴があります。両者は使用する抗生物質が異なるため、鑑別を行うことは重要となります。
またヒト側の原因として、脳卒中などで飲み込みの力が低下し食事や唾液を誤嚥(ごえん)することによって起こる誤嚥性肺炎や、他の病気の治療で免疫力が低下して起こる日和見(ひよりみ)感染症といったものが挙げられます。誤嚥性肺炎の場合は、口の中にいる菌(大腸菌や嫌気性菌)が原因菌となることが多いと言われています。

肺炎の診断の流れは、問診で肺炎を疑い聴診により肺雑音が聴取された場合に、胸部レントゲンやC T・採血検査・喀痰検査を実施し確定診断を行います。
問診では、5日以上高熱が続く、脈や呼吸が早いなどの症状があれば積極的に肺炎を疑い、胸部レントゲン・C T検査・採血検査を行います。胸部レントゲン・C T検査では、肺炎を起こしている部分が、下記のように白く映ることで診断します。採血では、白血球数の上昇や炎症反応の高値がよく見られます。時には尿検査を行い、肺炎球菌やレジオネラ菌に感染しているか調べることもあります(尿中肺炎球菌抗原検査や尿中レジオネラ抗原検査)。喀痰検査では、原因菌を同定するために行います。ただし、喀痰検査により原因菌が判明するのには3−7日と時間を要するため、症状や胸部レントゲン所見、尿中抗原検査により原因菌を推定し治療を行います。

問題 肺炎の初期に投与すべきでない抗菌薬は? · 1 ペニシリン · 2 セフェム · 3 ニューキノロン · 4 クラリスロマイシン.

肺炎と診断した場合、次に重症度を判別します。軽症〜中等症の方は外来にて治療を行い、中等症から超重症の方は入院して治療を行います。重症度の判別には、年齢や血圧、意識障害の有無や酸素化の程度、血液検査結果を使用します。

肺炎の治療の基本は、「抗生物質」です。
抗生物質は、原因となっている細菌を殺す薬になります。使用する抗生物質は、原因となる菌により異なります。しかしながら、先ほど示した通り原因菌が判明するまでに時間がかかりますので、診断初期には原因となる細菌を推定し、ある程度どの菌にも効果があるような抗生物質を用いて経験的に治療を開始します(エンピリック治療と言います)。
細菌性肺炎の場合は、ペニシリン系抗生物質(ベニシリン系抗生物質:オーグメンチンやアモキシシリン)やセフェム系抗生物質(セフトリアキソン点滴)、ニューキノロン系抗生物質(レボフロキサシン)により治療を行います。
非定型肺炎の場合は、マクロライド系抗生物質(アジスロマイシンやクラリスロマイシン)やニューキノロン系抗生物質(レボフロキサシン)などを使用します。投与期間は、一般的には5-7日間になります。

圧迫骨折+認知症+誤嚥性肺炎=??? (総合診療 25巻10号)

肺炎の治療で重要なことは「抗生物質の服用を中断しない」ことです。症状がよくなってきたといって治療を中断してしまうと、肺炎をぶり返したり、抗生物質の効きにくい耐性菌を誘導してしまいます。抗生物質は、特に副作用などがなければ、処方された日数分を飲み切ってください。

また、肺炎の症状に対する対症療法も行います。対症療法は、原因菌に対する治療ではなく、症状を緩和するために行います。具体的には、発熱があれば解熱剤を使用し、咳が強ければ咳を抑える薬を使用します。しかしながら、咳は原因菌を体の外に出そうとする人間の生理的な反応でもあるので、過剰に咳を止めることはあまりよくないとも言われています。

通院の場合・入院の場合、基礎疾患のあり・無し、肺結核、非定型、反復性誤嚥性肺炎 ..

特にワクチンの接種はとても有効です。肺炎球菌ワクチンはインフルエンザワクチンと併せて接種することで、肺炎での死亡や入院が減少することがわかっています。抵抗力の落ちる65歳以上の方は、接種を行ったほうがよいでしょう。

肺炎は、適切な時期に診断し治療することで早くよくなる病気です。一方で、風邪などのウイルスが原因の症状には、過度に抗生物質を処方することは効果がなく耐性菌を誘導するため、当院ではあまり行っていません。また背後に肺癌や肺結核などの重篤な病気が隠れていることもあるので、呼吸器内科専門医による診察が重要な病気でもあります。上記のような症状に当てはまり、肺炎が疑わしい場合は、早めに医療機関に受診することをお勧めします。